今月、パリ17区で日本人が塩酸をかけられる事件があったそうだ。
被害者の方のことを思うと、とても心が苦しい。
フランスで過ごしている中で、日本人がアジア人として人種差別の対象にされることはコロナが始まってからではない。
よくフランス在住や旅行中の芸能人がフランスで人種差別を受けたという発信をしていることをネットニュースなどで見るが、実はよくある話だ。
私は2017年、母とパリで観光していた時、休憩しようと入ったカフェのウエイターからあからさまな嫌がらせを受けた。
席に座って、何度注文を頼もうとウエイターに合図しても、席の上のパラソルを開けてくれと頼んでも、自分で重たいパラソルを動かそうとしていても、ウエイターは注文も取りに来ないし、助けてもくれない。
そのウエイターは、その後アメリカ人の観光客が入ってきてすぐ笑顔で注文を取りに行っていた。
悔しくて、屈辱で涙をこらえながら、何も注文せず(できず)母と二人でカフェを出た。
日本人である、アジア人であることを恥ずかしいと思ったのは初めてだった。
コロナの影響が出始めた2020年頭からは、フランスで2度、通りすがりの人からの悪意を受けた。
手に酒の空き瓶を持った若者の集団の一人が、遠くから私に近づいてきて、汚い言葉を吐き捨てて逃げた。トラムに乗っていたら、汚らしい身なりの男が息の音が聞こえるほど近づいてきて汚い言葉をかけてきた。
それからは、フランスで外出する際は、マスクをして、帽子をかぶって、極力アジア人であることを隠している。
人種差別の標的になる経験は、私がフランスに見出していた魅力をかき消すほどショックだった。
でも、何よりショックだったのは、誰も助けてくれないことだ。
カフェで無視をされていても、暴力的な言葉を投げかけられていても、みんな見て見ぬふりだ。
そもそもフランス社会の問題は、人種差別的思考をもつ人がいることはともかく、その人たちが公の場であからさまな人種差別をしてもいいと考え、行動に移すことができる社会であることだ。
SNSでおおっぴらに「アジア人狩り」なる、人種差別的暴力的運動がおきていることがそれを物語っている。
フランス人エリート層は、フランス社会における「他者」であるアジア人移住者が人種差別を受けていたって、正直別にどうでもいいのだろう。
なにより、これ以上フランスでのアジア人に対する人種差別的運動がエスカレートしないこと、被害者が増えないことを祈るばかりだ。
外に出るだけでも気を張るような今のフランスは、もううんざりだ。